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9月14日約束の日、ぽつりぽつり降り出した雨にも関わらず、三々五々集まりだした人々は、ふきのとうホールの客席を一つ、また一つ埋めていく。200名は入るこのホールだが、今はその半分しか入ることを許されない。それでもほぼ満席となる100名の前に、午後6時半、佐々木幸男は現れた。
「ほーぼー」で幕を開け、ギターの音色と佐々木の歌声が会場に流れると、客席には安ど感のようなものが広がっていく。今夜の空模様にふさわしい「雨風景」がそれに続き、「君は風」あたりでは、今がコロナ禍で、隣の客席には一つ置きに観客が座っていることも、全員がマスクをかけてステージを見つめていることも、しばし忘れる。
それさえも佐々木の「こっち(ステージ)から見てると、病院の待合室みたいだ。」の声に、一瞬、現実に引き戻されるのではあるが、ネガティブな空気より広がる笑い声のほうが勝っていたように見て取れた。
今年の春先、若くして亡くなったゴズペルシンガーNATSUKIと、昨年デュエットした「揺れてタンゴ」や、新曲の「風景モエレ」を披露したり、第一巻第百章時代からの盟友、伴洋一を呼び込み「75日」を聞かせてくれたり、また自身の70歳のバースデーを祝ってもらう一幕もあったりと、会場全体が一体となって温かな空間を紡ぎ出し、非常に心地よいコンサートになっていた。
途中、時間が20時になると、佐々木幸男原作のエンタテイメントライブ「君に話しかける僕は誰」(円山ドジャース公式Youtubeチャンネル https://youtu.be/YmQ_106_2TO)が、まさにその時間からYoutubeで配信開始されるということが話題に上り、そして同じくYoutubeで配信中の佐々木幸男を含む、札幌を中心に活動するミュージシャン5組によるホールコンサートの無観客配信ライブ「Sapporo
Acoustic Theater」(Northworks公式Youtubeチャンネル https://youtu.be/hhzuo_UeGag) についても触れた。
こういった試みはまさにコロナ禍の今だからこそ行われた活動に他ならない。8か月ものブランクが、佐々木に声が出ないのではという不安をもたらしたこと、しかしコンサートを行うことで彼自身が救われたこと、そしてあらためて現場の熱量というものに気づいたという話をしてくれた。
「長い不在」、「ラストシーン」に続き、おなじみの「September Valentine」の歌声が会場に響くころ、今日も心に沁みる歌声と言葉が聞けたという満足感にどっぷりと浸る。そしてアンコールでははじけるように「カンガルージャンプ」で会場全体を揺るがせ、全16曲を締めくくった。
3月のステージが5月に延期になり、それさえも行うことが叶わなかったこの長い期間、巷にもエンタメの不在が大きく影を落とした。コンサートやライブはことごとく延期や中止の憂き目にあい、フェスのない夏を過ごし、ステイホームが叫ばれ、ソーシャル・ディスタンスが常識となり、大衆は等しく情緒を揺さぶる空間に身を置きたいと、渇望していたはずだ。
“生きる、暮らす、うたう”と今回のコンサートのポスターには記されていたが、この日、乾いた大地に久方ぶりの雨が沁みとおる様に、佐々木幸男の歌は私たちの渇きを潤してくれた。それは音楽の持つ力に、彼だけでなく聞き手のこちら側もあらためて気づかされ、そして癒される瞬間でもあった。
この先まだ続くコロナ禍と呼ばれる時間、その果てに何が待っているか誰も知らない。
でも佐々木幸男とは、来年の3月13日に共済ホール「佐々木幸男コンサート2021」で同じ空間を生きるという、約束を結んである。その日を心待ちにしている。
(音楽ジャーナリスト 内記 章)
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