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雨に包まれた豊平館は、宵闇迫る中シックなたたずまいで、ステージが始まるのを今や遅しと待ちかまえていた。期待に満ちたざわめきが客席に広がり、クラシックな装飾に室内の空気も一段と高揚して行く。と、照明が落ち、ライトの当たるステージに山木が登場するや、拍手の渦がわきおこる。いよいよ「45年目のFlying」のスタートだ。
オープニングの一曲は季節にふさわしい「初夏」。そして「再会」と続き、観客との再会を喜ぶかのようだ。会場となった豊平館の、木造建築独特の風合いが、ギターの音色と山木の歌声ごと会場全体を抱え込むような温もりにあふれている。客席にもその肌合いがつたわるのか、終始アット・ホームな雰囲気の中、山木のMCに笑いを誘われたり、郷愁をかきたてられたりしながらステージは進んでいく。愛器でもあるギター、ジャンボの音色がホールいっぱいに広がって、山木の声と良く馴染み、味わい深いサウンドに酔い痴れるひと時となる。
山木の足跡をたどるような「復興前夜」「水の底に映った月」や、ニューアルバムにも収録されている「天人様」、なつかしい「風来坊」などふきのとう時代の楽曲も含め11曲を披露したところでギターを呼び込み、「ボーダーライン」「山のロープウェイ」「銀色の世界」「思えば遠くへ来たもんだ」を立て続けに歌い上げた。一心に聞き入る観客は、山木の作家としての力量をも見せつけられることとなったのだ。
そしてここからは、キーボードともう一人ギターを加え、いよいよソロ作品としては実に36年ぶり、セルフ・プロデュースによりソニーからリリースしたニューアルバム「黄昏のビール」からの固め打ちとなる。「打ち水の唄」「山登り」「松浦武四郎」をこの日一番の喉で聴かせ、観客から盛大な拍手と歓声を浴びていた。実際、ここがクライマックスとでも言うように、声が良く伸び、思わず年齢を忘れるほどの艶があった。
興奮冷めやらぬ会場に再び登場してアンコールの「憂鬱で厄介な笑顔のサンタクロース」そしてアルバムタイトル曲「黄昏のビール」を歌うと、全ての感動を引き受けるかのように「また、会いましょう」と拍手を送り続ける観客の前から軽やかに去った。
雨が上がって漆黒の夜の帳の中、濡れたままの豊平館に深い余韻が漂っていた。
(音楽ジャーナリスト 内記 章)
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