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2012年の音楽シーンを振り返ってみると、チャート上位をにぎわすAKB48、ジャニーズ系を始めベスト・アルバムやカヴァー・アルバム、由紀さおり、きゃりーぱみゅぱみゅ等が注目を集めた。そこでいくつかの特徴的なシーンをピックアップして詳しく検証してみたい。
まず、何といってもこのCDの売れない時代に、出せば必ずミリオン・ヒットを飛ばし、もはや社会現象と言えるAKB48人気。今年リリースした5作品も全てミリオン・セラーとなり、CDの売り上げ記録を次々と塗り替えている。彼女たちを引き金に、姉妹グループのSKE48、NMB48らの他、ももいろクローバーZ、乃木坂46など女性アイドルユニットは枚挙に暇がなく、まさに戦国時代を迎えている。一方ジャニーズ系では嵐に続き、今年デビュー8周年を迎えた関ジャニ∞が大躍進、今年リリースしたシングル3作全て首位を獲得。またKis-My-Ft2(デビューから5作連続首位獲得)、Sexy Zone(1stアルバム初登場首位獲得)ら若手グループの活躍も目立った。
次にデビューから一年足らずで日本武道館公演を成功させたきゃりーぱみゅぱみゅをはじめ人気ファッション誌で活躍中の青文字(原宿)系モデル出身アーティストの登場も今年の大きな特徴の一つになった。きゃりーぱみゅぱみゅは来年以降に海外進出も本格化するなど、日本発のクール・カルチャーとしてどんな広がりを見せていくか、音楽業界にとどまらず興味深い。
一足先に世界に誇る日本のカルチャーとしてアニメの隆盛が今年も続いているが、アニメソングや人気声優によるアニソンはブームから一ジャンルとしての牙城を築き、今年もチャート上位の常連組である。
また毛色の変わったところでは、エアーバンド(楽器を身振りだけで操り実際は演奏しない)のゴールデン・ボンバーも印象に残った。
YUIやmiwaらの活躍で一つのシーンを形作ってきた感のある女性シンガー・ソング・ライターの中では、新人の家入レオが頭ひとつリードしている。また、有線で人気上昇中のティーナ・カリーナ「あんた」も目を引いた。男性アーティストではデビュー20周年の斉藤和義や、昨年のブレイクから好調を続けるナオト・インティライミがシーンをリードし、共にNHK紅白歌合戦に初出場も決定している。
一方、この2、3年にわたりチャートを席巻してきたK−POPは、1月発売の日本デビューシングル「KISS KISS / Lucky Guy」がオリコンのシングルチャートで2位にランク・インしたキム・ヒョンジュンをはじめ、ずば抜けた歌唱力の持ち主GUMMY(コミ)、俳優・歌手をはじめ幅広く活躍するイ・スンギ、国民の妹と呼ばれるTUとソロ・アーティストによるブームをねらったが、SHINee、東方神起、BIGBANG、少女時代、KARA、らのグループ勢に比べ、ソロ戦略はいまひとつの印象をぬぐえなかった。動画サイトで「江南スタイル」が再生回数8億回を超え、世界の注目を集めたPSY(サイ)も日本ではあまり受けなかった。K−POP旋風は一段落といったところか。。
今年特筆すべきは、昨年11月に日本発売された由紀さおり&ピンク・マルティーニのアルバム「1969」。先に海外から火がついて大ヒットとなり、昭和の歌謡曲を見直すきっかけにもなった。改めて邦楽の良さがクローズ・アップされ、同時に由紀さおり自身の歌唱力を世界に知らしめる形となって、今後の音楽シーンに新たな方向性を見出す一つの道標となったのではないだろうか。
そしてもうひとつ忘れてならないのは、現在活躍中のアーティスト達にも多大な影響を与えているビッグ・ネームが、今年ベスト・アルバムのリリース・ラッシュとなったことだ。海外でもビートルズがデビュー50周年、ローリング・ストーンズが結成50周年を迎え話題になっているが、ゆず(15周年)、Mr.Children(20周年)、桑田佳祐(ソロ25周年)、松任谷由実(40周年)はそれぞれアニバーサリー・イヤーを記念してのベスト盤だ。そのほかにも、コブクロ、山下達郎、槇原敬之、EXILEら大物やベテランがずらり。デビュー10年に満たないJUJU、YUIも大健闘。なかでもMr.Childrenは2枚のベストアルバムを同時に発売し、いずれもミリオン達成という快挙を成し遂げた。
今年は16年ぶりの復活も話題を呼んだプリンセス・プリンセスや、再結成したT-BOLAN、TM‐NETWORKなど一世を風靡したバンド復活の嬉しいニュースもあった。10数年を経て帰ってきたバンドの曲が今受け入れられているのは、かつてのファン層に加え、リアルタイムで彼らの楽曲を知らない世代にも支持されているからで、そこには古びない楽曲やアーティストパワーが備わっているからだと思われる。
徳永英明に端を発したカヴァー・ブームも一ジャンルとして定着してきた。今年はJ−POPを英語詞でカヴァーしたアルバムもいくつか出ているが、中でもBENIが「COVERS」に続き「COVERS2」をヒットさせ注目を集めた。カヴァーのニュー・ウェイブと言えるだろう。また、カヴァーの中には八代亜紀によるジャズアルバムなども登場し、アプローチの多様化が見て取れた。
演歌界は小林幸子のお家騒動がマスコミを騒がせたが、セールス的には氷川きよし、水森かおり、五木ひろしの3強の1年であり、「酒のやど」が根強い人気をみせた香西かおりの活躍も光った。一方新人はAKB48から初の演歌歌手として華々しいデビューを飾った岩佐美咲、現役中学生歌手・臼澤みさきが注目を集めたほかは盛り上がりを欠いた。明るい話題としては、各メーカーからデュエット・ソングのリリースが相次いでおり、売上では7月発売の増位山太志郎&松居直美の「秘そやかに華やかに」がリードしているが、他作品も演歌ランキングや有線リクエストに顔を出し、ちょっとしたムーヴメントの様相を呈してきている。もともとカラオケに欠かせないデュエット曲であるが、忘年会、新年会シーズンの需要に応えるばかりでなく、各社が震災後の日本にデュエット・ソングで元気になろう、そして演歌の不振を打開しようとひとつの盛り上がりを作った背景もある。
最後に北海道の音楽シーンを振り返ってみると、今年は松山千春がデビュー35周年を迎え、同じく40周年のBAKER SHOP BOOGIE、昨年30周年を迎えたみのや雅彦ら、ベテランが意気軒昂なところを見せたほか、現在北の音楽シーンの牽引役を担っている怒髪天が、道内不動の人気を全国区に押し上げ、一層楽しみな展開になってきた。全国区といえば、念願のメジャーデビューを果たした札幌在住7人組バンドA.F.R.O.や若手女性シンガーソングライターのRihwa,山崎あおい、住岡梨奈などが続々登場して来ている。また2人にはなったがZONEの復活、現役女子高校生ユニットclariSの活躍も忘れてはならない。バンド勢ではMONOBRIGHT、Galileo Galileiが新譜をリリースし精力的に活動を続けている。演歌では水田竜子が新曲「余市の女」でオリコン週間演歌チャート1位を初獲得。
また北海道出身でこそないが、清水博正が1979年に北海道からヒットした「石北峠」をカバーし、じわじわ浸透してきていることや、道内ラジオ局でレギュラー番組を持つ山内恵介や松原健之らの活躍も記憶に残った。
今年は有力アーティストによるベスト盤の好セールスが、5年連続で下降線をたどっていたアルバム市場をX字回復に転じ、長らく続いた音楽ソフト市場全体のマイナス成長にストップをかけることができた。久々に音楽業界に明るい兆しが見えてきたことになる。
こうしてみると、ジャンルといい傾向といい実に多様化してきて、売上に結びつくところだけではなく、いい音楽、いい作品に目を向ける機会の多い年だったように思う。震災以降アーティストのみならず、人々の求めるものも変化してきているのかもしれない。音楽の果たす役割を考える一年でもあった
(文:音楽ジャーナリスト 内記 章:2012年12月12日)
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