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「みのやがみのやであるために」
56歳になったみのや。56歳といえば一昔前は定年後。しかし今はまだまだ働き盛り。ましてや定年などない音楽の世界。世間には60台70台の現役ミュージシャンがごろごろいる。とすればみのやには、中堅とかベテランという呼び名もふさわしくない。みのやはどこまでいってもみのやだから。
リアルライブツアー2017「あなたが幸せになれないはずがない」のステージに登場したみのやからは、いつものように親しみ、あったかさ、励まし、慰め、など、一見柔らかなようでいて、強烈なヒーリング・パワーを持つエネルギーが放たれている。そしてその向こうにガツンとゆるぎない手応えを感じさせてくれる。歌って弾いて語って、笑わせホロリとさせ、胸の中を熱くしてくれる。目が眩むほど眩しくはないけれど、その光に照らされたい、その光に手を差し伸べたいファンがひきもきらない。
誤解を恐れずに言えば、今回のステージ、みのやがいつになく楽しんでいたように見て取れた。針の穴を通すような正確無比な歌を素晴らしいというなら、繊細でありながらぶっきらぼうで遠慮なく全身をぶつけてくるみのやの歌は、いささか乱暴かもしれない。だが、歌に通う血は誰より濃く熱い。そしてその熱が客席の隅々まで届く歌なのだ。みのやの歌を受け取る観客一人一人の表情に、満足していくみのやがいる。そしてどんどん歌が良くなっていくのだ。
およそ一人の歌手がコンサートのステージでベストを尽くさないなんてことはあり得ない。みのやにしてももちろんそうなのだが、彼はステージで客席とハートのキャッチボールを繰り返しながら、ぐんぐん歌の懐が深くなっていくのだ。まるで会場全部を飲みこんでしまおうというほどに。
だから、新曲、知っている曲、好きな曲、聞くほどに、ステージが進むごとに、観客はぐいぐい引き込まれていく。オープニングのアカペラ「あなたが幸せになれないはずがない」から耳を傾けていたが、「夢しかなかった」「百の言葉 千の想い」あたりで加速し、どんどん歌の密度が濃くなっていく。前半を終わって休憩をはさんでもその加速が止まらない。後半の「雪の花」は今までで一番美しく聞こえた。途中から紅白のトップスにサンタを彷彿とさせたが、みのやサンタから「がんばってね」「あなたが幸せになれないはずがない」と歌われたら、それはもう応援歌というよりクリスマス・プレゼントと呼ぶべきか。
歌の贈り物を届ける、だから今回あんなに楽しそうだったのだと合点がいった。
アンコールで白一色の衣装に身を包み、ゲストの木田優夫(北海道日本ハムファイターズ・ゼネラルマネージャー)、宇和野貴史(元プロレスラー)を紹介した後の「傷ついた翼」には心が震えた。毎回、毎回歌う度にその時のみのやの気持ちが反映されるからなのだろう、何度聞いてもあらたな感激に出会える。そういう歌手は多くない。あらためて思う。ミスター・スターダストは凄い歌い手なのだと。
例えば回遊魚のマグロは泳ぎ続けていなければ死んでしまう。植物の種は芽を出せば、双葉、若葉と伸びて行き、幾多の自然淘汰の末、花咲き実を結ぶ。次の世代に命を受け継ぐ事を疑いもせずに生きて行くのである。我らがスター・ダスト、みのやは歌を作り、歌うことに何ら疑念を差しはさむ余地もない。みのやがみのやであるために、彼は歌い続けていくのだろう。
(音楽ジャーナリスト 内記 章)
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