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3年ぶりの開催となったRISING SUN ROCK FESTIVAL(以下RSR)。悪天候で二日目のみ開催となった2019年、新型コロナ禍のため中止を余儀なくされた2020年、2021年を経て、今回様々な対策を講じ、「特別な形でのRSR2022」が行われた。 収容人員やステージ数を減らし、会場レイアウトやルールの変更など、感染症対策のための安心・安全を考慮した音楽の楽園には、1999年の初開催以来の「DO IT YOURSELF」「RESPECT OTHERS」「LOVE&PEACE」のポリシーが変わることなく掲げられ、ウィズコロナ禍でのフェスの新しい形が示された。 お馴染みの「SUN STAGE」に加え、換気対策を考慮した「EARTH STAGE」、新しいエリアにはデンマーク語で「居心地がいい空間」「楽しい時間」を表すHygge(ヒュッゲ)を冠した「Hygge STAGE」が登場。この三つのステージに二日間で43のパフォーマンスが繰り広げられた。 8月12日朝方までの雨がところどころに水たまりを残す会場に、夏の日差しが降り注ぎはじめ、待ちかねた「RSR2022in EZO」が開幕。ドローンから見るゲートをくぐる来場者は、まるで放たれた風船のように足早にそれぞれの目的の場所へ散っていく。一分一秒をも惜しむ気持ちが伝わってくる。 午後1時半、SUN STAGEに登場したのはSUPER BEAVER。フェスの再開を祝し、トップバッターにふさわしい熱いパフォーマンスを披露した。鮮やかな赤の衣装をまとったボーカル渋谷龍太は、翌日のSATURDAY MIDNIGHT SESSIONにも参加。RSRならではの若手からベテランまでが同じステージに集い、一夜限りの貴重なパフォーマンスを行う場所にも姿を見せた。 新しく誕生したHygge STAGEにはワタナベシンゴ(THE BOYS&GIRLS)が初登場。ギター一本でライジングへの思い、体調不良のため出演キャンセルとなったカネコアヤノに寄せる気持ちをストレートにぶつけ、観客の支持を得ていた。 この日はクリープハイプ、羊文学、YOASOBI、ずっと真夜中でいいのに。、岸田繁(くるり)、ASIAN KUNG-FU GENERATION、Creepy Nutsら16組がそれぞれの音を響かせ、3年ぶりのフェスを渇望していた来場者に、たくさんの音楽を降り注いだ。 翌13日、SUN STAGEのトップバッター、東京スカパラダイスオーケストラのステージで始まったのはドラムバトル。そこには茂木欣一(Dr.)と並んで、地元出身の少女ドラマーYOYOKA(12歳)の姿が。シークレットゲストとして登場し、ドラムバトルのほかにスカパラと3曲を一緒に演奏。これには観客も大喜びで盛り上がる。 EARTH STAGEに登場したのは緑黄色社会。緑の衣装でテンション高く飛び跳ねる姿は楽しさにあふれ、爽快というほかない。この後は、怒髪天、the pillowsがそれぞれのサウンドをぶち上げれば、miletが透明感あふれる歌声を響かせる。SUN STAGEにはマカロニえんぴつ、フジファブリックらが気炎を上げる。 そして、第一回から出演し、2019年に17年ぶりの再結成第一弾としてRSRのステージを踏むはずだったNUMBER GIRLは、3年越しの思いを果たし、解散発表もして観客を驚かせたが、吹っ切れたかのような力強いプレイを見せた。 日が陰りはじめても気温は高め、風も程よく、体力を奪う猛暑や風雨とは無縁の空模様に、中止を余儀なくされた3年前の初日や、ロック・イン・ジャパン2022の最終日中止の報を思うにつけ、昨今の日本の異常気象からすれば、天も味方につけたかのようだ。 暮れなずむころ、Hygge Stageにあらわれたのは田島貴男。(ひとりソウルショウ)と題された大人の雰囲気たっぷりのパフォーマンスで、バラ色の夕焼けを向こうに、迫りくる宵闇をバックに、あたりの空間をひときわ味わい深く染め上げた。 今回、体調不良により、急遽出演キャンセルとなったアーティストに前述のカネコアヤノ以外にもBiSH、Vaundyがいるが、King Gnuもそのひとつ。それを受けてSUN STAGEに登場したのはレキシ。「キラキラ武士」に始まり、光る稲穂を振る観客を前に、King Gnuを名乗ったり「白日」を替え歌にしたりと、会場を沸かせに沸かせ、オファー2時間後に出演を決め、二日後にはオンステージという緊張感などみじんも感じさせず、大いに楽しませてくれた。 夜も深まり、SATURDAY MIDNIGHT SESSION(~明日に架ける歌~菌滅の音楽会)が始まる。ゲストプレイヤーの上原ひろみは、ピアノが生き物のように音を跳ね回らせるプレイで会場をうならせ、甲本ヒロト、中村佳穂、岸田繁(くるり)、奥田民生、渋谷龍太(SUPER BEAVER)TOSHI-LOW(BRAHMAN/OAU)らバラエティに富んだ顔ぶれが登場した。 この後、Vaundyの代打としてステージに現れたのは藤井風。いきなりVaundyの「踊り子」から立て続けに4曲カバーし、自身の曲を2曲挟んで、King Gnu、カネコアヤノ、BiSHのカバーも披露するなど、急遽の出演とは思えないパフォーマンスに驚かされる。時にはピアノの弾き語りで、時にはアカペラで、アンコールでは音源を流してスタンドマイクの前でフリまで説明する八面六臂の活躍ぶり。アーティストへのリスペクトと音楽への愛情あふれるステージパフォーマンスは、会場のみならず生配信で見ていた人々の心までも動かしたに違いない。 そして今年のトリはBEGIN。温かく、胸にしみる歌声が石狩の大地に行き渡り、ともに夜明けを迎え入れながら、音楽の力を信じる心に等しく届いた。 こうして幕を閉じたRSR2022は、8月12日、13日二日間で 総出演アクト数43アクト(12(金):17アクト/13(土):26アクト) 総入場者数48,100人(12(金):23,400人/13(土):24,700人)(主催者発表) を数えた。 今回、初めてのコロナ禍のフェスに参戦してみて、強く感じたのは、アーティスト同士のつながりやリスペクト、音楽を愛し、信じる心がパフォーマンスのそこかしこにあふれていたことだ。代打出演のフジファブリックがBiSHの未来を祝福し、レキシがKing Gnuをいじり(?)、藤井風にいたっては出演キャンセルアーティストのカバーを全員分披露するといった具合に、出演できなかったアーティストの無念を晴らすだけでなく、リスペクトや愛情は観客やスタッフ、主催者にも注がれていたように思う。 来場者も一様にマスク姿で、ソーシャルディスタンス、検温や消毒、黙食とコロナ禍の新しいルールを淡々と守り、大歓声や一緒に歌うことはかなわないまでも、パフォーマンスには声援の代わりに拍手を送り、タオルやグッズを振ったり、携帯のライトを灯したりするなどして精一杯のリアクションで応えた。 ウィズコロナの新しい形が受け入れられ、受け継がれ、そしていつかまた、何の心配も屈託もなく、石狩の空の下で声を上げ、笑いあい、歌いながら、踊りながら渾身のパフォーマンスを浴びて、最高の音楽体験を積み重ねたいものだ、ということを痛感した今年のRSRだった。
(音楽ジャーナリスト 内記 章)
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